2023.03.30 第9回衛生コラム 動物由来感染症について

アルちゃんが、食品衛生や感染症に関する疑問を社内の専門家に尋ねます!

第9回 衛生コラム

テーマ:動物由来感染症について

株式会社アルボース
生産開発本部 商品クリエイト部 衛生システム東日本開発課
伊井 宏
FSMS審査員(JRCA登録No.F1099)

今回は動物由来感染症について解説いたします。

1.動物由来感染症とは

 「動物由来感染症」とは動物から人に感染する病気の総称です。人と動物に共通する感染症(Zoonosis:ズーノーシス) は、「人獣共通感染症」ともいわれますが、厚生労働省は人の健康問題という視点から、「動物由来感染症」という言葉を使っています。なお、「動物由来感染症」には、人も動物も発症するもの、動物は無症状で人だけが発症するもの等、病原体によって様々なものがあります。 

 

2.動物由来感染症が問題となる背景

 背景には人間の社会環境の変化と行動の多様化があげられています。例えば、交通手段の発展による膨大な人と物の速やかな移動、人口の都市集中、土地開発と自然環境の変化、先進国では高齢者など感染抵抗力が弱い人々の増加や野生動物のペット化などです。そのような中、未知の感染症の出現(新興感染症)や、忘れられていた感染症が勢いを取り戻す(再興感染症)例がみられます。新興感染症の多くは動物由来感染症です。人々は多くの生物と共存している事実を忘れずに、幅広い視野に立って感染症対策を立てていく必要があります 

 

3.新興感染症

 世界では新しい感染症が次々と出現しており、その多くが動物由来感染症です。それらの中には人への感染力も強く重症化する傾向があるもの、特異的な治療法がないもの、ワクチンが実用化されていないものもあります(重症熱性血小板減少症候群(SFTS)、エボラ出血熱、マールブルグ病、中東呼吸器症候群(MERS)、ハンタウイルス肺症候群等)。動物由来感染症は、世界保健機関(WHO)が確認しているだけでも200種類以上あります。また、生物テロに用いられる可能性があるものとして、炭疽菌、ペスト菌、野兎病菌等の細菌、ウイルス性出血熱の原因ウイルス等があげられていますが、これらはいずれも動物由来感染症の病原体です。


表1:我が国や外国で実際に発生している主な動物由来感染症

 

4.ワンヘルス(One Health)

 動物から人へ、人から動物へ伝播可能な感染症(人獣共通感染症)は、全ての感染症の約半数を占めており、医師及び獣医師は活動現場で人獣共通感染症に接触するリスクを有しています。こうした分野横断的な課題に対し、人、動物、環境の衛生に関わる者が連携して取り組むOne Health(ワンヘルス)という考え方が世界的に広がってきており、厚生労働省も、One Health の考え方を広く普及・啓発するとともに、分野間の連携を推進しています。 

 

5.日本と世界の動物由来感染症

 世界中に数多くある動物由来感染症のすべてが日本に存在するわけではありません。日本は世界の中では例外的に動物由来感染症が少なく、寄生虫や真菌による疾病を入れても数十種類程度と思われます。しかし、世界には非常に多くの動物由来感染症が存在しており、特に海外ではむやみに野生動物や飼い主不詳の動物に触れてはいけません。 

 

  

6.日常生活で注意すること

表2



参考:厚生労働省「動物由来感染症ハンドブック2022」(消費者向け)