アルちゃんが、感染症に対する疑問を専門家の先生にお尋ねします!
今回は、新型コロナウイルス感染症によるパンデミック後の高齢者福祉施設における感染対策の基本的な考え方や、具体的な実施方法について、
菅原えりさ先生に伺いました。
第15回 衛生コラム
高齢者福祉施設における感染対策 ~日常のケアに根付かせて!~
日本赤十字社医療センターで感染制御活動に従事した後、2013年から東京医療保健大学大学院 医療保健学研究科 感染制御学に着任し2016年より同教授。感染制御に従事する臨床家のリスキリング支援の傍ら、災害時の感染制御支援体制や福祉施設における感染制御体制および人材育成に取り組んでいる。
厚生科学審議会感染症部会委員、東京感染症対策センター(東京iCDC)感染制御チームボードメンバーなど、感染制御に関する様々な役職を歴任。感染制御学博士
2023年5月に新型コロナウイルス感染症(COVI-19)が感染症法の五類に分類されてから、人々の生活に活気が戻ってきました。ウイルス自体が変わったわけではありませんが、本格的な「Withコロナ」時代へと舵を切ったのです。
パンデミックの最中、「高齢者福祉施設」は、利用者の命を守るために慣れない感染対策を手探りで続けてきましたが、五類移行後はそれらを継続するかどうかも含め自ら考えていかなければならなくなりました。そのような中、高齢者福祉施設は感染対策にどのように向き合っているのでしょうか。
感染対策の基本は「標準予防策(図1)」にあります。高齢者福祉施設も例外ではなく、つまり、手指衛生、咳エチケット、個人防護具の適正使用、衛生的な環境の維持、さらには特に有症状者の配置(状況よる隔離)など(図2)です。これらを日々のケアの中に根付かせることが、すべての利用者と従事者を守る感染対策となり、さらに、これらを適切に実施できれば、感染症を引き起こしている微生物が特定されなくても、感染経路別対策に匹敵する対応が可能なのです。
図1
図2
さて、感染症はCOVID-19だけでないことは言うまでもありません。COVID-19も含めた呼吸器症状(インフルエンザの想定)や、突然の下痢嘔吐症状(ノロウイルスを想定)を有した利用者への対応ルールはあるでしょうか。両者とも拡散しやすい感染症で、高齢者福祉施設では特に注意が必要です。ぜひ、パンデミック時に経験した対策を参考に、改めて隔離方法(図3)や使用する個人防護具そして消毒薬などの見直しと明文化、下痢嘔吐物の処理セット(図4)などの準備と対処方法(図5)の見直しと策定、そしてそれらを用いた定期的な研修スキームを作り出していただきたいと思うのです。これを繰り返し行うことが、日常のケアの中に標準予防策をはじめとする感染症対策を根付かせることになると考えます。
図3
図4
図5
2024年4月の介護報酬改定では、今回のような感染症事例が発生した場合に病院と連携することに報酬として評価されることになりましたが、日々の感染対策つまり予防的観点についての明確な評価は残念ながらありません。
高齢者福祉施設は今や「社会インフラ」で、インフラであれば「安心安全」でなければならないのは当然です。感染対策の定着が「安全な施設」管理の一端であることを改めて認識していただきたいと切に願います。私はそのために引き続き、高齢者福祉施設を支援していく所存です。
――ありがとうございました。