2021.07.06 第2回衛生コラム 食品衛生法の改正について(前編)

アルちゃんが、食品衛生や感染症に関する疑問を専門家の先生にお尋ねします!

第2回 衛生コラム

テーマ:食品衛生法の改正について(前編)

元 千葉県衛生指導課長、元 全国食品衛生監視員協議会会長、
現 NPO 法人食品保健科学情報交流協議会(NPO 法人食科協) 運営委員長 北村 忠夫

食品衛生法が改正され3年が経過し、6月1日から全面施行されることになりましたが、新型コロナウイルス感染症の影響で食を取り巻く環境は相当な部分で混乱しております。
そこで、改正の経過を再確認し、これからの取り組みについて整理してみましょう。まず、前編です。

食品衛生法改正とは、HACCPの制度化の事ですよね?

改正食品衛生法は、「食品衛生法等の一部を改正する法律(平成30年6月13日法律第46号)」として、「と畜場法」その他の法律改正とともに公布されたものです。
厚生白書等の記載によると食品衛生法の改正の趣旨として「我が国の食をとりまく環境変化や国際化に対応し、食品の安全を確保するため、広域的な食中毒事案への対策強化、事業者による衛生管理の向上、食品による健康被害情報等の把握や対応を的確に行うとともに、国際整合的な食品用器具等の衛生規制の整備、実態等に応じた営業許可・届出制度や食品リコール情報の報告制度の創設等の措置を講ずる。」と記載されていますので、「HACCPの制度化」だけでなく、いろいろな項目についても改正されております。
 改正食品衛生法は、平成31年4月1日に「広域食中毒に対する広域連携」を施行し、令和2年6月の一部施行を経て、令和3年6月1日から全面施行されました。

なぜ今、食品衛生法を改正したのですか?

食品衛生法は昭和22年に公布されてから、数次にわたり食品衛生の推移に合わせ改正を重ねてきました。前回(平成15年)の食品衛生法等の改正から約15年が経過し、我が国の世帯構造の変化を背景に、調理食品、外食・中食への需要の増加等の食へのニーズの変化、輸入食品の増加など食のグローバル化の進展といった我が国の食や食品を取り巻く環境に変化が見られました。
そこで、これに対応した、新たな国際標準に合った食品衛生管理を推進する必要がありました。

具体的には、どのように改正されたのですか?

改正食品衛生法は、次の8項目について課題を整理し、見直され改正されました。
*食品事業者の皆様の関心の高い項目は青字です。

①広域的な食中毒事案へ対策強化について
これまで、食中毒予防や食中毒発生時の対応は、関係自治体が行ってきました。自治体をまたがり広域に発生する事案の際には、時間を要し、部分的な対応のために全体像を把握することによる原因究明が遅れたり、不明になったりしていました。
これに対応するため、国や都道府県等が、広域的な食中毒事案の発生や拡大防止等のために相互に連携協力するとともに、地方厚生局を中心とする広域連携協議会を設置して、緊急を要する場合には、この協議会を活用し、対応することとされました。

②HACCPに沿った衛生管理の制度化について
これまで、HACCPの考え方を取り入れた総合衛生管理製造過程による承認制度を廃して、事業者自らが重要工程管理等を行う衛生管理制度としてHACCP が導入され、自主的なリスク管理とサプライチェーの構築と連携が強調されました。
ただし、規模や業種等を考慮し小規模営業者等は、取り扱う食品の特性に応じた衛生管理をする「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」をすることとされ、各業界団体が作成する手引書を参考にした衛生管理を行うこととされました。

③特別の注意を要する成分等を含む食品による健康被害情報の収集について
特殊な成分を含む食品による多数の健康被害が報告されました。食品による健康被害情報の収集が制度化されていないため、必要な情報収集が困難であり、健康被害の発生・拡大を防止するための食品衛生法を適用の根拠が不足していたことによります。
そこで、健康被害の発生を未然に防止する見地から、特別の注意を必要とする成分を含む食品について、事業者から行政への健康被害情報の届出をすることとされました。

④国際整合的な食品用器具・容器包装の衛生規制の整備について
食品用器具・容器包装の安全性や規制の国際整合性確保のため、規格が定まっていない原材料を使用した器具・容器包装の販売等の禁止等を行い、安全性が担保されたもののみ使用できることが重要であるとして、食品用器具・容器包装について、安全性を評価した物質のみを使用可能とするポジティブリスト制度の導入がされました。

⑤営業許可制度の見直し、営業届出制度の創設について
法改正によるHACCPの制度化に伴い、営業許可の対象以外の事業者所在を把握するため、届出制度を創設するなど、あわせて、営業許可について食中毒リスクを考慮しつつ、実態に応じたものとするため、見直しが行われました。
これにより、営業許可業種の見直しや営業許可業種以外の事業者の届出制の創設を行い、あわせて、営業施設の施設基準も見直をし、届出対象外の業種も定めました。

⑥食品のリコール情報の報告制度の創設について
事業者による食品等のリコール情報を行政が確実に把握し、的確な監視指導や消費者への情報提供をすることにより、食品による健康被害の発生を防止するための制度を創設し、営業者が自主回収を行う場合は自治体へ報告する仕組みの構築をしました。
喫食による重篤な健康被害又は死亡の原因となりえる可能性が高い食品(法第6条違反の食品等)をClass1とするなど、そのリコールの危害度を表すこととしています。

⑦食品衛生申請等システムの構築について
食品等事業者による営業許可等の申請手続きの効率化、食品リコール情報の一元管理等の観点から、電子申請等の共通基盤のシステムを整備し、もって飲食の事故の発生に起因する事故の発生を防止し、あわせて食品等事業者の行政手続きコストの軽減を図ります。
事業の主たる活用は、食品事業者と関係自治体や保健所間の事務であるが、閲覧や消費者においても検索ができることとされています。

⑧食品等の輸入及び輸出関係について
輸入食品の安全性を確保するため、輸入要件を明確にするとともに、食品輸出関係事務の法定化をすることとしました。
輸入要件として、HACCPに基づく衛生管理、乳製品・水産食品の衛生証明添付を定めています。
また、輸出先国の衛生要件を満たすことを示すため、国・自治体における衛生証明書の発行等の食品輸出関連事務の法規定を創設します。

法改正の説明会で「リスク管理」と言われたが、どのようなことでしょうか?

厚生労働省の食品衛生法改正の説明会等において、各項目の説明にリスク管理の考え方という表現をしていましたが、具体的にはどのようなことでしょうか、また、衛生管理はリスク管理そのものと言われているがなぜでしょうかという質問が寄せられています。
一般的に食品衛生のリスク(危害)管理とは、製造や調理において、想定されるリスクを未然に防止するための対応策を検討し、その策を実施することです。
具体的には、製造や調理の各段階におけるすべてのリスクを列挙し、発生時の影響を見える化し、優先度又は重要度に合わせた防止策を計画し実行することです。
化学物質については、食品添加物、農薬、容器包装の原材料物質等においても、各物質についてその安全性にかかわるリスク評価を行い個別に安全性を評価し、それに応じたリスク管理として、使用方法、使用量等を定めた規格基準を設定することを行います。(表1)

表1 リスク分析の考え方とは

HACCPのキーワードとして、原材料の入荷から製品出荷までの全工程とはどのようなことでしょうか?

HACCPにおける危害分析は、原材料の搬入から製品出荷・搬送までの全工程の各段階において行われる食品安全管理を中心とすることですが、HACCPの義務化の目的はフードサプライチェーンを「HACCP管理事業者のチェーンとすること。」です。原材料はHACCP事業者から入手し、HACCPによる衛生管理をして製造・調理をして、製品をHACCP事業者に出荷するつながりとなります。
すなわち、食品事業者はフードサプライチェーン全体を俯瞰しながら、自ら参加しているフードサプライチェーンが機能していることを確認の上で、製造・調理をしながら、営業活動をすることです。(図1)

図1 食品事業者の視点は(サプライチェーンマネジメント)
図1 食品事業者の視点は(サプライチェーンマネジメント)

本文作成に当たり厚生労働省資料を参照しております

食品衛生法の改正について―後編ー」に続くから、みてね。